京町家物語3 祇園祭の頃、夏のしつらえが涼しげな下京紬問屋のギャラリースペース

古建築・古い町並み
はじめに

「玄想庵」は京都市下京区東洞院通仏光寺上ルにある「廣田紬」の店舗であった京町家を改装したギャラリースペースです。建物は明治中頃に建築された総2階、表屋造の旧館と昭和中期に増築され、2022(令和4)年に改修された事務所等のスペースがある新館からなります。旧館は昔ながらの方法で数寄屋大工や職人が修繕に携わり、大切に手入れがされています。

広田紬の歴史

廣田紬の創業者 廣田勘蔵(1910(明治43)年 生まれ)は、京都の大手繊維商社で修業後、中国へ渡ります。広東へ進出、旧日本軍のおかかえ商人となり、香港で繊維工場を経営し、事業を拡大しましたが、終戦により事業は全て接収されてしまいます。勘蔵はすべてを失った中、新たに事業を起こすにあたり考えました。「普段着としての着物の時代は終わったが、民族衣装として必ず生き残ってゆくであろう。最高級品を扱い、専門性に特化することで末永く商売ができるのではないかと。」1946(昭和21)年、本場結城紬を専門に扱う問屋として現在の地に廣田商店を創業(昭和46年に廣田紬株式会社へ改組)しました。縞柄と横総が主流であった時代に斬新なオリジナル柄を次々と発案、新たな境地を切り開きました。産地問屋「結真紬」を擁し、最盛期には年間5000反以上を扱う「結城紬の廣田」※結城紬(茨城県結城市)として名を馳せることになりました。現在では、本場の大島紬(鹿児島県奄美大島)をはじめ、日本各地の伝統工芸織物を扱う専門商社として、産地の伝統を未来につなげています。      

※廣田紬株式会社ホームページから引用(内容が変わらない範囲で表現を変更)しています。

外観

旧館

元治どんどん焼け(禁門の変)(1864(元治元)年)で、京都中心部の多くの町家が焼失しました。その直後に建築された江戸期のフォルムを継承した町家の外観とは異なり、明治中期に建築された建物はわずか20年程度の違いなのですが、総2階で黒漆喰の外壁が洗練されたスマートな印象与えます。元々は旧館側に表玄関があったと推測されますが、今は新館側にあります。

内観

ギャラリースペース

暖簾をくぐってすぐ右手に、かつてのミセ部分(表屋)を改装したギャラリースペースがあります。

1階
2階

※玄想庵ホームページから引用

ギャラリースペース奥の内玄関
中庭
中の間
奥座敷

訪れた日は宵山、床に山鉾巡行で必ず先頭を務める長刀鉾の紋の掛け軸とちまきが飾られていました。

夏のしつらえでは、部屋を間仕切る建具が襖から簀戸となり、床に網代が延べられ涼やかな景色となります。

縁側にはくちなしの花が1輪

敷地はうなぎの寝床で奥に細長くのびています。ミセ(表屋)、母屋と続き、母屋1階に座敷が3間一列に並び、一番手前の座敷からは中庭、奥座敷からは奥庭が望めます。さらにその奥には茶室及び蔵があります。かつての通り庭の走り部分は昭和期に改築され、応接間と控室(非公開)となっています。

玄想庵では、梅雨入りのきざしがあると、襖や障子をはずし、蔵へ運び込み、代わりに簾戸や御簾、籐の網代(敷物)の夏のしつらえに替えられ、今も昔ながらの京町家の伝統「夏の建具替え」が続けられ

奥庭

奥庭は、座敷から見て中央奥に春日灯籠、左側に織部灯籠、その奥には、茶室に入いる前に手を清めるための円筒型の手水鉢が配されています。座敷廊下右脇には棗型の手水鉢、そして、沓脱石は大振りの鞍馬石、そこから飛び石が向かい側の茶室へ延び、要所に据えられた景石とあいまって、バランスの取れたレイアウトとなっています。明治から大正期に作庭されたと思われる上品な町家の庭です。

茶室
茶室横の土蔵
2階廊下
2階応接間
2階大広間(表屋部分)
2階座敷
京からかみ(唐紙)の襖

襖の文様は雲母(きら)を用いて版木で刷られ、光の当たり方によって、ふわっと浮かび上がります。

商家の2階は一般的に店主家族のプライベート空間になることが多いのですが、商いをしている場合は、商談などで顧客をもてなす座敷となる場合があります。本2階スペースは上質の材が用いられ、床の間なども格式高く仕上げられていることから、後者で使用されたのではないかと思われます。

さいごに

建物は、阪急電車・地下鉄の四条烏丸駅近くにあります。買物客や観光客でごったがえす四条通から東洞院通を一本下るだけで、四条通の喧騒がうそのようです。「玄想庵」の名前の由来はホームページ等に記載がなく定かではありませんが、「玄」は奥深い、幽玄といった意味のほか黒色を表しますので、店の外壁が黒漆喰で仕上げられていることに関係するのではと想像しました。「想」は思いめぐらす、「庵」には茶室・草庵のような静かな空間を指します。そのような言葉がぴったりくる伝統が息づく町家です。ギャラリースペースとして展示会などが開催されていますので、イベント情報をチェックして訪れてはどうでしょうか。ギャラリースペースの奥にある奥庭はいつまで眺めていても見飽きません。晴れた日より、雨の日のしっとりとしたお庭が個人的にはお勧めです。

(参考文献)
会社案内 – 結城・大島紬 紬の卸売【京都の廣田紬株式会社】
京町家ギャラリー「玄想庵」

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