関西唯一のF・L・ライト作品 芦屋「ヨドコウ迎賓館」(旧山邑家住宅)

玄関アプローチ

原設計  フランク・ロイド・ライト
設計監理 遠藤新建築創作所
施工   女良工務店
建築主  山邑太左衛門(8代目)
建築概要 RC造 地上4階
建築面積 359.1㎡ 延床面積:542.4㎡
竣工   1924(大正13)年

はじめに

「ヨドコウ迎賓館(旧山邑家住宅)」は、芦屋市の芦屋川沿いで六甲山系の突端ともいうべき急峻な丘の上にあります。この建物はル・コルビュジェなどとともに、二十世紀、世界建築の巨匠といわれるフランク・ロイド・ライトが関西に唯一に残した作品です。

今も人気の清酒銘柄「櫻政宗」を醸造する造り酒屋・八代目当主山邑太左衛門が避暑のための別邸として建築されました。山邑の娘婿で政治家・星島二郎が、ライトの下で仕事をしていた遠藤新と大学時代からの親しい友人であったことから、遠藤を通じて設計依頼されました。依頼を受けたライトは芦屋を訪れ、芦屋市街を一望できる建設予定地の丘に大変興味を持ち、設計を引き受け、1918(大正7)年に、この建物の原設計をおこないます。しかしながら、完璧主義者であったライトは代表作でもある旧帝国ホテルの設計で予算オーバー、工期遅延、度重なる設計変更などにより経営陣と対立して解任され、1922(大正11)年にアメリカへ帰国しました。

その結果、実設計は一番弟子の遠藤新や南信らによって引き継がれ、1923(大正12)年に着工、翌年竣工しました。完成後は山邑家の別邸などとして使われていましたが、1947(昭和22)年、社長公邸を探していた淀川製鋼所がこの建物を購入し、後年は独身寮などとしても使用されました。老朽化のため1971(昭和46)年にはマンションへの建替え検討もされましたが、建築史研究者らの保存要望を受けて取りやめられました。

ライトが日本で設計した住宅建築としてほぼ完全な形で現存する唯一の作品で、その価値の高さから1974(昭和49)年、大正時代以降の建造物として初めて又、RC造の建物としも初めて国の重要文化財の指定を受けました。

建設当初の姿に戻すための修復と調査を経て1989(平成元)年から「ヨドコウ迎賓館」として一般公開されています。阪神淡路大震災後の1995(平成7)~1998(平成10)年と、2016(平成28)~2018(平成30)年にも大規模な保存工事が行われました。

外観
玄関アプローチ(陸屋根からの立上り2 カ所は2 階・4 階にある暖炉の煙突)

建物は地形を活かした4階建てで、最も低い南端に玄関を設け、北側の稜線に沿って縦長で階段状にフロアが配置されています。全体としては4階建てでありながら、3階や4階の上階でも木々などの自然を身近に感じられ、周辺環境と融和するよう工夫がなされています。玄関車寄せには大開口が設けられ、周囲の緑や眼下の芦屋市街、大阪湾が額縁のように切り取られ、目を楽しませてくれます。

車寄せ
玄関

日本でのライト建築の特徴で、旧帝国ホテルにも使われている、幾何学模様が刻まれた大谷石を建物の内外装に多用しています。この石材は軽石凝灰岩で、栃木県宇都宮市大谷町で産出されます。柔らかく加工しやすいことから、北関東では住宅の塀や蔵等の外装材として古くから一般的に使用されていますが、内装に使用したのはライトが初めてといわれています。多孔質で茶色っぽい白色の肌に「ミソ」と呼ばれる茶色の斑点が浮かぶ豊かな表情が建物の魅力をより一層引き立てています。

内観
2階応接室(机と椅子はライトのデザイン思想に基づいて新たに作られたものです)
2 階応接間
2階応接間(書架)
2階応接間(大型窓)

ライトは建物の設計だけでなく室内の家具類などのインテリアの設計もおこないました。この建物ではアイボリーで塗装された無機質のコンクリート壁に、植物をモチーフにした細かな装飾が施された大谷石とモールティング、マホガニー製の物入れや棚などの作り付けの家具が組み合わされ絶妙な空間構成を生み、ライトが理想とする世界が創り出されています。建物上部の小窓の連なりは、明り取りの意味もあるのでしょうが、当初は窓ガラスではなく網戸が装着され、調湿を目的としたものでした。連続性のある小窓は意匠的に面白いですが、芦屋がいくら瀬戸内気候で雨が少ないとはいえ、台風も来たでしょうし、大雨の時は、このたくさんの小扉を脚立に乗って一々閉めて対応したのでしょうか? 雨が吹き込んだ時は...(汗)

階段(2/3階)
2階廊下(和室床脇上の開口部)
階段(3/4階)

葉っぱをモチーフにした銅板飾りはドアや窓など随所に使われ、内装に統一感を持たせています。色も葉の緑色にするため、薬品で緑青をわざわざ発生させました。

3階和室
3階和室

3階には、3間続きの和室があります。ライトの原設計にはなかったものですが、施主山邑家の要望により実現しました。建物全体の雰囲気を損なわないようモダンな和室に仕上がっています。床の間の壁はRC造の建物にわざわざ土壁で施工され、細部までのこだわりを感じます。

ライト設計の幾何学的なタリアセン
3階廊下
3階書斎

ライトがデザインしたインテリアに囲まれた明るく広々とした書斎は、さぞかし仕事がはかどったと想像できます。一息つくときも、窓からは南側に面した他の部屋と同様に芦屋市街、大阪湾が望め、なんとも贅沢な空間です。

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3階書斎のドアノブ

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4階バルコニー

3階書斎のドアノブ 4階バルコニー
4階食堂
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4 階食堂(天井のモールティングと飾り支柱)

三角形の小窓がアクセントになった四角錘のような形状の天井には、入隅みに沿って幾何学模様のモールティングが走り、私にはそれがなぜかナスカの地上絵に見えてしまいました(笑)。複雑な形状の飾り支柱に実用性はありませんが、天井装飾から続くデザインの流れを受けとめ、室内全体を引き締めています。又、この部屋だけではありませんが、花器、オブジェや照明器具など生活に潤い与える演出スペースが随所に設けられています。

さいごに

緑豊かな芦屋市山の手、大豪邸が建ち並ぶ傾斜地の一角に建物はあります。受付の元ヨドコウ職員だという女性が気さくにお話しいただきました。各所に切り花が飾られ、行き届いた管理がなされています。大正末の建築当初、相当モダンな印象を与えたはずですが、今見てもその斬新なデザインは、いつまでも色あせぬ宝石のようです。関西唯一のライトの作品ということもあり、関心が高いのでしょう。私が訪問した日は多くの来場者がありました。週末と祝日を中心に開館していますので、事前にスケジュールをご確認ください。

参考文献

ウイキペディア
ヨドコウ迎賓館ホームページ

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